潮の満ち引き。
海の水が満ちたり引いたりすることですよね。
釣り・潮干狩り・海水浴などに行ったとき、特にこの潮の満ち引きを実感します。





潮が満ちているときを満潮、潮が引いているときは干潮と言いますが、あいちゃんが不思議に思っているように、この満潮と干潮は1日2回ずつやってきます。
潮の満ち引きの原因が月の重力であることはあなたもご存知かと思うのですが、なぜ1日2回ずつやってくるのでしょうか?
このページでは、そんな潮の満ち引きが発生する理由と、なぜ1日2回ずつやってくるのかを分かりやすくお話していきます。
潮の満ち引きが起こる仕組み
それでは早速ですが、まずは潮の満ち引きが起こる仕組みを一言で説明したいと思います。
こちらです。
月の重力によって地球が楕円形に変形し、高くなったところは海水が減って干潮に、低くなったところは海水が増えて満潮になる。
分かりやすいように図にすると、このようになります。

このように、地球が月の重力によって月の方向にわずかに楕円形に引き伸ばされ、相対的に地面が高くなる月と月の反対側が干潮、相対的に地面が低くなるその中間が満潮になります。
※月も地球の重力によってわずかに楕円形になっていますが、説明図上では丸い形にしています。
そして、地球は1日1回自転で回っているので、地球のある地点からの見かけの上では、月が1日1周回っているように見えます。
そのため、1日2回ずつ、満潮と干潮がやってくるというわけです。


ちなみに、あいちゃんとけいくんが思い描いていた潮の満ち引きの仕組みは、下の図のような感じです。

これは間違ったイメージなのですが、あいちゃんとけいくんも月にも重力がることは知っていたので、月の重力に引っ張られて月の方に海水が引っ張られていると思っていたのです。
このようになっていれば、満潮と干潮は1日1回ずつのはずなのに、新聞やネットで満潮と干潮の時刻をみると、いつも1日2回あるのです。



どうやら、潮の満ち引きの仕組みは、あいちゃんとけいくんが思っていたのとはだいぶ違ったみたいですね!
それでは次章からは、潮の満ち引きの仕組みをさらに深堀りしながらお話していきますよ。
潮汐力とは?
この章では、潮汐力とはどのような力なのかについてお話していきます。
まずは潮汐力を一言で表すと、このようになります。
重力を受けている物体が、重力の掛かっている方向に引き伸ばされる力のこと。
言葉だけではなかなか分かりにくいので、イラストにするとこのようになります。

このイラストは、物体Bの重力を受けている物体Aに掛かる潮汐力を表したものです。
このように、物体Aが物体Bの重力を受ける方向に対して引き延ばされるような力が働きます。
なぜこのような力になるのかというと、重力の特徴の一つに、重力の発生源となっている物体に近ければ重力は強く、物体から離れていくほど重力が弱くなるというものがあるからです。
このことを考慮に入れながら、物体Aが物体Bからどのような重力を受けているかを考えてみます。
そすると、物体Aの中でも物体Bに近い方がより強い重力を受けるので、重力の受け方は下の図のようになります。

同じ物体Aの中でも、物体Bに近い方はより物体Bの重力が強く、物体Bから遠い方は物体Bの重力が弱く働いているのが分かります。
これを物体Aの中心にかかる重力と比べてみると、物体Bの側はより強く物体Bに引っ張られ、物体Bの反対側は逆に中心よりは引っ張られないという現象が起きていることになります。
分かりやすいように物体Aの中心にかかっている重力との差分をとると、物体Aは下の図のような力を受けているのと同じことになります。

これが、「潮汐力」の正体です。
物体Bに近い方が引っ張られるのは分かりやすいですが、物体Bの反対側ではあたかも重力とは逆方向の力が掛かっているように見えるのは、このようなからくりがあったからだったのですね。
潮汐力は重力が大きくなればなるほど強くなり、その影響を受ける物体を引き伸ばす力も強くなります。例えば、重力がものすごい強いブラックホールの中に落ちると、潮汐力の影響でどんな物体でも縦長に引き延ばされてしまいます。
そしてこの現象はスパゲッティに例えて、スパゲッティ化現象と呼ばれています。こんなふうに縦に引き伸ばされて死にたくはありませんので、ブラックホールには絶対に落ちたくないですね(笑)
地球潮汐とは?
第2章で潮汐力がどのような力なのかについて詳しくお伝えしましたが、この章では、その潮汐力が地球に及ぼしている影響がどのくらいなのかを伝えします。
ちなみに、地球が潮汐力を受けて変形することを「地球潮汐」と呼んでいます。
そして、東京大学のとある研究室で、実際に地球潮汐で地面がどのくらい変化するかを図ったデータが発表されています。
こちらのページです→東京大学理学部|月や太陽の引力で地球がどれくらい変形するか測ってみた
この研究室の観測結果を一言で表したのがこちらです。
日本付近では、12時間周期で、地面が約30cm上下に変化している。
このように、日常生活では全く気付かないのですが、12時間周期で地面が30cmも上下していたのです!
日常生活で全く気付かないのは、地面の変化がとてもゆっくりなのと、自分の周りも一緒に上下しているので、景色が何も変わらずに変化を実感できないからですね。
そしてこの12時間周期というのは、正に潮の満ち引きとピッタリと一致した周期です。
月の重力で発生する潮汐力で、本当に地球が12時間周期で変形していたのですね。
潮汐力と潮の満ち引きの関係
潮汐力と言ったものがどんな力か分かったところで、改めて潮の満ち引きの仕組みを詳しく解説していきます。
ここで、再度第1章のイラストを見てみましょう。

月による潮汐力の影響で、地球が月の方向にわずかに引き伸ばされます。
そうすると、月と月の反対側は相対的に地面が高くなり、その中間は相対的に地面が低くなります。
地面がこのように変化するので、海水は地面が高いところから低いところに流れようとして、月と月の反対側は海水が少なく、その中間は海水が多くなります。
このとき、地面の上にいる人からみると、月と月の反対側にいる人は海水がどんどん減っていくので、潮が引いているように見えます。
これが、干潮の状態です。
逆に、その中間にいる人からみると、海水が周りから集まってくるのでどんどん増えて、潮が満ちているように見えます。
これが、 満潮の状態です。
私たちが実際に月を見るときには、月が真南に来ているときには自分が月側にいるので干潮になります。
また、東の空から月が出るときと、西の空に月が沈むときは中間の位置にいるタイミングになるので、この時に満潮になります。
ちなみに、海水に対してももちろん潮汐力が発生していて、海水も月側に引き伸ばされる力が働くのですが、海水は固体である地球と違って液体なので、「流れる」ということができます。
このとき、地球の重力によって低い方に海水が移動する力と、潮汐力によって海水が引き伸ばされる力を比べると、地球の重力による力の方が潮汐力より数百万倍強いので、海水は潮汐力なんて全く掛かっていないかのように普通に高い方から低い方を目指して流れていきます。
そのため、月の重力によって地球に潮汐力が働くと、海水だけ月側と90度ずれた方向に向かって流れていくのです。
このような現象が起きて、月と月の反対側が干潮、その中間が満潮になっていたのですね。
大潮と小潮について
最後はちょっと余談になりますが、大潮と小潮が発生する理由についてお話しようと思います。
大潮とは、潮の満ち引きの差が最も大きくなるとき、小潮とは、潮の満ち引きの差が最も小さくなるときですね。
なぜこのような差が起こるのかというと、その原因は月と太陽と地球の位置関係にあります。
潮の満ち引きは基本的には月の重力の影響で発生しているのですが、実は太陽の重力の影響も受けているのです。
太陽は、月から受ける力の半分程度ではありますが、地球の潮の満ち引きに関わっているのです。
では、実際に大潮の時と小潮の時に地球と月と太陽の位置関係を見ていきたいと思います。
大潮
まずは、大潮の時から。
大潮の時の太陽と月の位置関係は、下の図のようになります。


このように、地球と月と太陽が一直線上に重なる、新月と満月の時が最も潮の満ち引きの差が大きくなります。
この時に大潮になるのは、月と太陽の潮汐力が重なってより強い潮汐力が地球に働くからです。
小潮
次は、小潮の時です。
小潮の時の太陽と月の位置関係は、下の図のようになります。

このように、地球から見て月と太陽が90度ずれた状態となる、半月の時が最も潮の満ち引きの差が小さくなります。
このときは、月と太陽の潮汐力がお互いに打ち消し合う形になりますので、月から受ける潮汐力がいつもより弱くなるのです。
そのため、潮の満ち引きの差があまり大きくならず小潮となるのですね。
実際の潮の満ち引き
ここまでは潮の満ち引きの仕組みについてお伝えしてきましたが、最後の章では、実際の潮の満ち引きがどのようになっているのかをみていきたいと思います。
実際の潮の満ち引きでは、季節によって月や太陽の位置が変わったり、地形や地球の自転の影響などもあるので、場所や日にちによって、満潮と干潮のタイミングや潮位の変化量も変わってきます。
ここでは、2021年5月26日(満月)の日の、東京・大阪・福岡の3地点の満潮と干潮の時刻と、太平洋側・日本海側・瀬戸内側の3つの地域の潮の満ち引きの特徴、さらには、万葉集で詠まれている潮の満ち引きの様子をお伝えします。
※満潮と干潮の時刻は、気象庁のこちらのページから調べることができます→気象庁|潮位表
東京
まずは、東京の満潮と干潮の時刻がこちらです。
2021/5/26(満月) | ||
---|---|---|
満潮 | ||
干潮 |
月の位置との関係を分かりやすくイラストにすると、このようになります。

この日は満月なので、深夜0:00ごろに月側になります。
イラストを見てみると、この日の東京は満潮と干潮が仕組み通りの時間よりも少しだけ早く来ているのが分かります。
月は29.5日かけて地球の周りを一周する公転運動を行っており、地球との位置関係が毎日変わっています。
その影響で、月が見かけ上で昨日と同じ位置に戻ってくる時間(例えば月の出など)は丸1日より50分遅れて、24時間50分後になります。
そのため、潮の満ち引きの周期は正確には12時間ではなく、24時間50分を2で割った12時間25分周期でやってきます。
上の図の場合では、満月の日に0時ちょうどに月が南中を迎えたとすると、その次の日には0:50に月が南中することになります。
大阪
続いて、大阪の満潮と干潮時刻がこちらです。
2021/5/26(満月) | ||
---|---|---|
満潮 | ||
干潮 |
イラストにすると、このようになります。

この日の大阪は、ほぼ仕組みの通りの満潮と干潮の時間になっています。
福岡
最後は、福岡の満潮と干潮の時刻がこちらです。
2021/5/26(満月) | ||
---|---|---|
満潮 | ||
干潮 |
イラストにすると、このようになります。

この日の福岡は東京とは逆で、仕組み通りの時間より約3時間遅れて満潮と干潮がやってきます。
地域ごとの潮の満ち引き
さきほどのはピンポイントの地点の潮の満ち引きでしたが、太平洋側・日本海側・瀬戸内側でも潮の満ち引きの特徴が違うので、それをお伝えします。
太平洋側
太平洋は遮るものが何もない地球最大の海なので、海水が良く流れて潮位差が大きくなります。
また、水の流れを遮るものがほとんどないことで、ほぼ仕組み通りに満潮と干潮がやってきます。
なので、太平洋側の地域は満潮と干潮の潮位差が約2mととても大きく、月が東の空から出てきたときと西の空に沈んだときが満潮で、南の空の高いところにあるときが干潮になります。
日本海側
福岡県から北海道にかけての日本海側の地域は、潮の満ち引きが起こりづらく、満潮と干潮の潮位差があまりありません。
日本海側では潮位差が50cm以下しかない地域も多く、太平洋側と比べると1/4以下になっています。
これは、日本海は結構大きな海で水深も深い割には、外海との出入口が対馬海峡や津軽海峡などわずかな隙間しかないので、十分な海水が流れることができずに潮位差が小さくなっているというのが理由です。
また、海水が移動できる箇所が少ないので移動するのにも時間がかかり、満潮と干潮が2~3時間ほど仕組み通りの時間より遅れてきます。
そんな日本海側では、潮位差が少ないため「舟屋」という独特の文化があります。

満ち潮のときと引き潮の時で海面があまり変わらないので、船をいつも海へ出しやすくできるのですね。
瀬戸内側
最後に瀬戸内側ですが、瀬戸内海も日本海と同様に外海との出入口は少ないですが、海も小さく水深も浅いため十分な量の海水が移動でき、太平洋側と同じく約2m前後の大きな潮位差があります。
しかし、海水の移動にはやはり時間が掛かるので、特に水路が狭くなる豊後水道・関門海峡・明石海峡・鳴門海峡よりも内側にある地域では、仕組み通りの時間よりも2~3時間遅れて満潮と干潮がやってきます。
万葉集と潮の満ち引き
また、万葉集で潮の満ち引きに関わる有名な詩があります。
こちらです。
熟田津に
船乗りせむと
月待てば
潮もかなひぬ
今は漕ぎ出でな
この詩では、月が出る頃を待って船を出そうとしています。
昔の船はエンジンなどという便利なものがなかったので、船で沖に出ようと思ったら、引き潮に乗らないと上手く進めませんでした。
先ほどの潮の満ち引きの仕組みを思い出すと、月が東の空から出るときが満潮で、そこから南の空に向かっていく時間帯が干潮に向かって潮が引いていく時間帯になります。
このように、昔の人は自然をよく観察していて、月が出たときが船を出すのに最も良いタイミングであることを経験上知っていたのですね。
しかもそれをこのような素晴らしい詩に込めるのですから、その感性にも脱帽です。
まとめ
以上で、潮の満ち引きの仕組みについての話を終わります。
まとめると、下記の通りです。
- 潮の満ち引きは、月の重力によって発生する「潮汐力」によって引き起こされる
- 潮汐力によって、地球が12時間周期で楕円形に変形する
- 月と月の反対側が干潮になり、その中間が満潮になる
- 満潮・干潮が起こるのは、地球が変形して海水が低いところに流れるため
- 満潮と干潮は、それぞれ1日2回ずつくる
- 太陽から受ける潮汐力は、月の約半分
- 満月と新月のときは、大潮になる
- 半月のときは、小潮になる
- 実際の潮汐は、地形などの様々な影響を受けて地域によって変わる



潮の満ち引きがどのような仕組みで発生しているのか、あなたにもそのイメージが伝わりましたでしょうか?
これから海などに行って満潮や干潮を感じる機会があるときには、その仕組みも思い出しながら見てみると、より面白いかもしれませんね(^^)