エコキュート。
いま流行りの、省エネ性能のかなり高い家庭用の給湯器ですね。
エコキュートは、最近特に多くなってきたオール電化の住宅で良く採用されている比較的新しいタイプの家庭用給湯器です。
その特徴は何と言っても省エネ性能の高さ。エコキュートのエネルギー源は電気ですが、なんと普通の電気給湯器と比べると約3分の1の電力でお湯を沸かすことができるのです!
そんなエコキュートの仕組みで良く言われていることが、「空気の熱でお湯を沸かす」ということです。しかし、お湯の温度よりも断然低い空気の熱でお湯を沸かすなんてにわかには信じられません。
そこで今回は、エコキュートの仕組みについて徹底的にまとめてみました!
このページでは、本業ではヒートポンプ技術にも関わっており、熱のプロでもある星野なゆたが、エコキュートの仕組みについて分かりやすくお話していきます。
目次
エコキュートの仕組みの概要
それでは、早速ではありますがエコキュートの仕組みをざっくりと説明したいと思います。
エコキュートの仕組みを一言で説明すると、下記の通りです。
ヒートポンプという技術を使って、空気から熱を吸収してその熱で水を温めてお湯を沸かしている。
そう、エコキュートはまさにCMの文言通り、「空気の熱を使ってお湯を沸かしていた」のですね!
しかし、ここである疑問が生まれます。
外の空気とエコキュートで沸かしたお湯の温度を比べたら、断然お湯の温度の方が高いです。
中学の理科で熱は温度が高い方から低い方へ伝わると習ったはずなので、お湯よりも温度の低い空気の熱を使ってお湯を沸かすということは、とても不思議に思います。
でも実際にはお湯が沸いているので何かしらの技術が詰まっているのですが、「ヒートポンプ」という技術がそれを可能にしています。
ここからはそんなヒートポンプとはどんな技術なのかと、超詳細なエコキュートの仕組みについてお話していきます。
ヒートポンプとは?
ヒートポンプ、普段の生活ではなかなか聞きなれない言葉ですよね。この単語がお出ましすることはまずありません。
そこでまずは、エコキュートの仕組みの詳細を説明する前にヒートポンプがどのような技術なかのというイメージについてお伝えしようと思います。
ヒートポンプの「ヒート」という単語は「熱」という意味なので、ヒートポンプは熱のポンプという意味になります。ポンプと言えば、水などの液体を運ぶ機械でおなじみですよね。
そして普通のポンプもヒートポンプも役割としては非常に似ているため、それぞれ比べながらヒートポンプについて説明します。
まずは、普通の水の場合。
A池とB池という池があり、B池はA池よりも高いところにあったとします。
この場合、A池の水をB池に移したいと思ったら、重力で水は高いところから低いところに流れるので、何もしないで自然に移すことはできないですよね。
しかしながら、下図のようにポンプを使ってみたらどうでしょうか?
ポンプを使ってA池の水をB池よりも高いところに汲み上げてやれば、晴れてA池の水をB池の水に移すことができますよね。
実は、ヒートポンプ技術もこれと全く同じよう形で熱の移動を行っています。
イメージとしては、このような感じです。
水の場合のポンプと同様にヒートポンプを使って熱を汲み上げて、本来移動するはずのない低い温度の外の空気の熱でお湯を沸かしているのですね。
ポンプで水を汲み上げるときに水の位置を高くしていますが、ヒートポンプで熱を汲み上げるときにはその温度を高くします。
そうすると汲み上げた熱の温度がお湯を沸かすために十分な温度になって、めでたく空気の熱でお湯を沸かすことができるのですね。
超詳細なエコキュートの仕組み
前章ではヒートポンプ技術とはどのような技術なのかそのイメージについて説明しました。
そこでヒートポンプとはどういった技術なのかは分かったのですが、水のポンプと違って熱を汲み上げるって実際どうやってるのか、なかなかイメージしづらいですよね。
ここからは、ヒートポンプ技術をどのように使ってエコキュートがお湯を沸かしているの、超詳細に説明していきたいと思います!
まずは、分かりやすいようにヒートポンプ技術使ってエコキュートがお湯を沸かす仕組みを図にしてみました。
エコキュートでは大きく分けて「ヒートポンプユニット」と「貯湯ユニット」の2つのユニットがあります。
ヒートポンプユニットはエアコンの室外機のような形をしており、ヒートポンプ技術を使ってお湯を沸かすためのユニットです。
貯湯ユニットは、ヒートポンプユニットで沸かしたお湯をためるためのユニットです。エコキュートでは石油やガス給湯器と違って瞬時に大量のお湯を沸かすことができないので、作ったお湯を貯めておく必要があるのです。
それではここから、ヒートポンプユニットと貯湯ユニットの役割について、さらに深堀してみていきます!
ヒートポンプユニットの仕組み
まずは、ヒートポンプユニットの仕組みからです。その名の通り、ヒートポンプ技術を使ってここでお湯を沸かしています。
空気の熱を使ってお湯を沸かすためのヒートポンプ技術に必要な部品は、圧縮機・膨張弁・水熱交換器・空気熱交換器の4つです。
そしてこの4つの部品が一つの回路になっていて、その回路の中を熱を運ぶ役割をしている冷媒ガスが流れて熱を運んでいます。
図にすると、このような感じです。
この4つの部品の中の水熱交換器に水を送り込んで、その水を沸かしてお湯にしているのですね。
それではここから、ヒートポンプに必要な各部品と冷媒の役割について、さらに詳しく説明していきます。
登場人物
その前に、説明を分かりやすくするために、3人の登場人物に登場いて頂きたと思います。
こちらです。
この3人は全てヒートポンプユニットの中に入っている冷媒なのですが、圧力や温度・熱エネルギーの持っている量によって、姿かたちが変化します。
気体くんは気体の状態、液体ちゃんは液体の状態、そして見た目がかなり怪しい臨界Xは、人相通りちょっと怪しい超臨界流体という状態を表しています。
通常では、物質は固体・液体・気体のうちどれかの状態になりますが、臨界点というある一定の圧力と温度を超えると、物質は超臨界流体という特殊な状態になります。この超臨界流体は気体と液体の区別がつかなくなる状態と言われており、気体と液体の両方の性質を持っているという特徴があります。
※固体・液体・気体の違いについては別ページで詳しくお話していますので、気になる方はこちらもご参照ください。
では、この冷媒3人衆に登場してもらいながら、ヒートポンプユニットの各部品の役割を説明していきます!
圧縮機
まずは、圧縮機です。
圧縮機はコンプレッサとも呼ばれており、ヒートポンプユニットの中に入っている冷媒を運ぶための心臓部となる部品です。
まさに人間の心臓と同じように冷媒ガスを流すためのポンプの役割を果たしています。
その働きをイラストにすると、下記のような感じになります。
圧縮機の入り口では、全ての役目を終えて帰ってきた冷媒がまた圧縮機に戻ってきます。
このときの冷媒は低温低圧の気体の状態で帰ってくるので、冷媒の中は全て冷たい気体くんで満たされている状態になっています。
そしてこの帰ってきた冷媒を圧縮機で圧縮して低圧の冷媒をまた高圧に戻します。
この過程は物理学で「断熱圧縮」と呼ばれている方法で圧縮を行われているのですが、この断熱圧縮を行うと、冷媒ガスの圧力が上がると同時に温度も上がるという現象が起こり、それを利用して、冷媒ガスを圧縮して圧力を高めると同時に、冷媒ガスの温度を上げています。
この温度と圧力を上げる際に冷媒の臨界点を超えるため、気体くんは気体の状態ではいられなくなり、臨界Xに変わります。
そのため、圧縮機からまたお湯を沸かすために旅立って行く臨界Xは、エネルギーたっぷり、しかもぎゅうぎゅうに詰まった状態になっています。
また、圧縮機で断熱圧縮を行う際に使った電力は、機械的なロスを除けば全て熱エネルギーに変わって冷媒ガスに移動します。
この熱エネルギーはお湯を沸かす時に有効に利用できますから、そのための熱として活用されます。
割合としては、電力から得る熱が「1」に対して、空気から得る熱は「3」くらいになります。そのため、「1+3=4」となり、エコキュートでは実際に使った電力の約4倍の熱を得ることができるのです。
だから、普通の電気温水器のたった4分の1電気代で同じ量のお湯を沸かすことができているのですね。
水熱交換器
水熱交換器は、お湯を沸かすための熱交換器です。
イラストにすると、このような感じになります。
圧縮機からやってきた高温高圧の臨界Xと、タンクから給水されてきた冷たい水とを熱交換させて、水をかなり高い温度である90℃くらいまで湧き上げます。
この時、冷媒と水の熱交換効率を高めるために、対向流といって冷媒と水の流れを逆方向に流して熱交換するという方法がとられます。
冷媒側からみると、だんだんと水に熱を奪われていくので、臨界Xの温度が徐々に下がっていきます。
そして熱交に入ってきた時よりはだいぶ温度が下がって、次の膨張弁へと向かっていきます。
膨張弁
膨張弁は、冷媒ガスの温度を下げるための部品です。
その役割をイラストにすると、このような感じになります。
膨張弁までは高圧の状態が続いているので、膨張弁の手前までは臨界Xがぎゅうぎゅうに詰まった状態になっています。(ちょっと嫌な光景ですが……)
そして膨張弁の中では、冷媒が通る通路がすごく狭くなっていて、わざと冷媒を通りにくくしている箇所があります。
その狭い部分を通すことによって、今まで高温高圧だった冷媒を低温低圧に変化させます。
この時、冷媒は圧力の高いところから圧力の低いところに自然に流れて行くので、圧縮機と違って膨張弁では全く電力が掛かりません。
膨張弁がやっているのは、運転状態によって変わってくる適切な「狭さ」になるように冷媒の通り道の幅をただ調整しているだけです。
ここでは、断熱圧縮の逆である「断熱膨張」と呼ばれている方法で冷媒の温度を下げています。
断熱圧縮とは逆で、断熱膨張を行うと冷媒ガスの圧力が下がるのと同時に温度も下がります。
そして、今まではあり得ないくらいの高い圧力によって臨界Xに姿を変えていた冷媒が、圧力と温度が下がって普通の世界に戻ってきて、たくさんの液体ちゃんと、ちょっとの気体くんに変わります。
空気熱交換器
空気熱交換器は、外の空気から熱を吸収するための熱交換器です。
その役割をイラストにすると、下記の通りになります。
膨張弁からやってきた低温低圧の液体ちゃんと気体くんが空気熱交に入ると、周りの空気と熱交換を開始して周りの空気から熱を奪います。
空気から見ると冷媒に熱を奪われるので、空気熱交では空気が冷やされることになります。
冷媒の変化としては、空気熱交に入った液体ちゃんは次々に気体くんに変わっていきます。
実は、気体くんと液体ちゃんは、同じ温度でも気体くんの持っている熱エネルギーの方が大きいという特徴があり、まず空気から奪った熱エネルギーはこの状態変化のために使われます。
そのため、全ての液体ちゃんが気体くんに変わるまでは冷媒の温度は変わりません。
上記のような、物質が「液体→気体」になるような状態変化に使われる熱を「潜熱」と呼んでいます。空気熱交では、この潜熱を上手に利用して空気から熱を奪っていたのですね。
※潜熱については別ページで詳しくお話していますので、気になる方はこちらもご参照ください。
そして全ての液体ちゃんが気体くんに変わった後、ちょっとだけ温度が上がってまた圧縮機へと帰っていきます。
冷媒ガス
ここからは、エコキュートに使われている冷媒ガスの物質はどのようなものが使われているかについてお伝えします。
これは、先ほど出てきた気体くん・液体ちゃん・臨界Xの正体ということになりますね。
そして、エコキュートの冷媒は「R744」という冷媒が使われています。
冷媒の世界では「R744」と呼ばれていますが、意外や意外、その正体はとても身近な物質である「二酸化炭素」なのです。
人間の吐く息に含まれていたり、地球温暖化の原因と言われているあのガスです。
二酸化炭素を化学式で書くと「CO2」となり、炭素1個と酸素2個が結びついた物質です。
イメージとしては下記のイラストのようになります。
この二酸化炭素が、これまでに説明した圧縮機、放熱用熱交換器、膨張弁、冷却用熱交換器の中をくるくると回っていて、せっせと熱を運んでいたのです。
また、二酸化炭素の臨界点は「31℃、7.38MPa(大気圧の約73倍)」となっており、これを超えると超臨界流体になるのですが、エコキュートではその状態の二酸化炭素も使っているのですね。
※圧力の単位Pa(パスカル)については別ページで詳しくお話していますので、気になる方はこちらもご参照ください。
そんな超臨界流体、日常生活ではまず見ることができないので、どんなものなのか気になりますよね。
そこで、ちょっと実際に見てみようと思います。それがこちらの動画です。
最初は気体と液体にはっきり分かれていた二酸化炭素なのですが、徐々に圧力と温度を上げていき臨界点に達すると、超臨界流体へと変わります。(動画では、2分40秒くらいのときです)
軽い気体が上、重い液体が下とはっきり分かれていた状態だった二酸化炭素が、徐々に区別がなくなっていき、最終的には容器の中の全てが超臨界流体で満たされた状態になります。
実際に超臨界流体を見てみると、ものすごくサラサラした液体といったような感じになっていて、何か神秘的なものを感じますね。
貯湯ユニットの仕組み
次は、貯湯ユニットの仕組みについてお話します。
エコキュートは石油やガス給湯器などのように一瞬でお湯を沸かすことはできませんので、温めたお湯を一度タンクに貯める必要があります。
タンクにお湯をたっぷりと貯めておいて、お湯が使われるときに備えるのですね。
それでは、貯湯ユニットの仕組みを、水の流れと共に見ていくとしましょう。
給水
まずは、給水からです。
エコキュートでは、水道水から給水された水をタンクの下側に送り込みます。
タンクの下側に貯めるのは、冷たい水は密度が高く重たいので下に集まるからです。
エコキュートでは冷たい水と暖かい水も同じ一つのタンクに入ります。
それなのに湧いたお湯が冷たくならないのは、密度が小さくて軽い暖かいお湯を上に、密度が大きくて冷たい水を下に貯めて、その2つが混ざらないようにしているからです。
こうすることによって、お湯と水が混ざらずに、一つのタンクに貯めることができるのです。
水熱交換器
水道水から給水されてタンクの下側に溜まった水を、ヒートポンプユニットの水熱交換器に送り込んでお湯を沸かします。
エコキュートでは一気に大量のお湯を沸かすことはできないので、毎分1~2リットル程度、ちょっとずつお湯を沸かしていきます。
沸かしたときのお湯の温度は、最大で90℃くらいになります。
貯湯タンク
水熱交で沸かしたお湯を、今度は貯湯タンクの上側に送り込んで貯めます。
上側に貯めるのは、前述した通りせっかく沸かしたお湯と冷たい水が混ざらないようにするためですね。
タンクにたっぷりとお湯を貯めて、お湯が使われる時に備えます。
出湯
おうちの中で蛇口が開かれたら、晴れて出湯となります。
この時のために貯めたおいたお湯が、シャワーや台所からお湯として出てきます。
また、このときに90℃のお湯がそのまま出たら火傷してしまいますので、出る前に混合弁という部品で水と混ぜて、リモコンの設定温度通りの温度にしてから出湯されます。
まとめ
以上で、エコキュートの仕組みについての説明を終わります。まとめると、下記の通りです。
- エコキュートは、ヒートポンプという技術を使ってお湯を沸かしている
- ヒートポンプで熱を汲み上げることによって、温度の低い外の空気の熱を使ってお湯を沸かすことができる
- エコキュートは、「ヒートポンプユニット」と「貯湯ユニット」の2つのユニットがある
- ヒートポンプユニットは、お湯を沸かすためのユニット
- 貯湯ユニットは、ヒートポンプユニットで沸かしたお湯をためるためのユニット
エコキュートの仕組み、とても不思議だった空気の熱でお湯を沸かすとはどういう意味だったのかが分かって面白かったです!
これでもう、エコキュートがなぜ空気のお湯でお湯を沸かせるのかで悩むことはなくなりました(^^)
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